La Becasse

In season

In season

2月の料理イメージ ある日の料理から

アスパラトリュフ

  • アスパラトリュフ
  • 早々とホワイトアスパラガスが届いたので、季節の終盤を迎えているトリュフと合わせてみました。穂先の方にはトリュフの薄切りを巻き付け、軸の方は短く筒切りに高さを揃えて並べ、トリュフゼリーを掛けています。ほとんど手を加えない素の味わい。1本を皿の上で切り分けて食べると味が連続していて、穂先と軸の違いに気が付きにくいですが、完全に分けてお出しすると、違う野菜なのかと思うほどに差が明確になります。無策のようでいて、季節の恵みを貪欲に味わい尽くす料理になっていると思います。

茸のサラダ菜包み ノワゼットオイル

  • 茸のサラダ菜包み ノワゼットオイル
  • 野菜料理が続きます。火を通した茸としろ菜などをサラダ菜で包み、ノワゼットオイルを回し掛け、ローストしたノワゼットを添えています。ほとんど温野菜サラダの感覚。野菜類の剥き出しの味にオイルコーティングすることで別種の味に飛躍します。とくにノワゼットのように薫り高いものは効果的。ナッツそのものも添えることで食感の変化も加わり、シンプルながら楽しい一皿になりました。

ナニワ黒牛のミスジステーキ 新玉ネギ添え

  • ナニワ黒牛のミスジステーキ 新玉ネギ添え
  • 大阪の特産品として知られはじめているナニワ黒牛。肩肉の内側部分、あまり運動しない希少部位をミスジと呼んでいます。運動する部分の肉自体の旨みと、運動しない部分の柔らかさと脂肪の旨みの両方を兼ね備えているありがたい肉です。
    ステーキを美味しくするには、肉の選択と火の通し具合に加えて塩の当て方が重要です。塩はミネラルを含んだ円みを感じられるものでないといけません。塩をして肉に馴染むまでの時間も必要。完全に沁み通って味が均一になってもだめ。口に入れた瞬間、塩気と脂肪の旨みが一体となって感じられ、そこに肉汁そのものの旨みが流れ出すところにステーキの妙味があると言っていいでしょう。
    付け合わせは新玉ネギ。葉の部分とようやく膨らみ始めたばかりの鱗片部分。強すぎないけれど力のある野菜にしました。

アラの蒸し物 ホタルイカと菜の花のソース

  • アラの蒸し物 ホタルイカと菜の花のソース
  • 関西ではクエと呼んでいる磯の深いところに棲んでいる魚で大きなものは1mを超えると聞いていますが、獲り過ぎているのかそんなに大きなものは見掛けません。締まった肉身のプリプリした食感と強い味わいが魅力です。個性をそのまま活かすために蒸しています。ソースには新物のホタルイカと菜の花を合わせたもの。ホタルイカの腸の濃厚さ、菜の花のほろ苦さにも負けない、アラの淡白な力強さに、あらためて感心されることでしょう。

アスパラのスープ

  • アスパラのスープ
  • 力強い料理が続くので、一息つくためのスープです。最近ではスープでコースを開始するスタイルはほとんど見られなくなましたが、スープ自体の魅力は不変。身体に優しく心を慈しむ働きは掛け替えのないものです。軽い塩味だけで、アスパラガスのピュレと呼んだ方がいいくらいの濃度にしています。彩りに芽蓼を浮かべました。受け皿に描かれている鳥の群れからのビジュアル上の連続性ができたのも面白いかなと思っています。

サワラのソテーカニソース

  • サワラのソテーカニソース
  • 脂の乗ったサワラをシンプルにソテーしています。身の色が白っぽく白身魚と思われがちですが、回遊魚で赤身の濃厚な味わいが持ち味です。その強さに負けないソースとしてカニソースを選びました。カニ味噌の風味がグッと幅を広げています。横に添えているのはクスクス。強めにビネガーで味付けしているので、ザラザラした食感とともに、明確なアクセントを付けています。

ラングドック産仔羊背肉のロースト トリュフソース ラム&チップス

  • ラングドック産仔羊背肉のロースト トリュフソース ラム&チップス
  • 羊肉はノルマンディーのプレサレが有名ですが、ラングドック地方の羊が輸入されるようになったという案内があったので取り寄せてみました。調理はオーソドックスにローストし、トリュフソースを合わせています。肉の旨味も十分にあるし脂身の香りも上々。骨付きでお出しする肉は野趣を感じながらむさぼるように食べるためのもの。手に持って骨の周りの骨膜まで食べてみてください。食べ方次第で一段と満足感が高まると思います。
    付け合わせはマッシュポテトとポテトチップス。フィッシュ&チップスならぬラム&チップス。とても相性がいいと思っているのですが、いかがでしょう。

オムレットノルヴェジャン

  • オムレットノルヴェジャン
  • クラシックなデザート。サーブする時にブランデーでフランベします。菜の花のアイスクリームをメレンゲで包んでいるのですが、メレンゲをこんもりと氷山のようにしてベイクドアラスカと呼んでいるところもありました。私は修業時代にオムレットノルヴェジャンの名前で作っていたのでこちらの方に馴染みがあります。テーブルでちょっとしたサプライズがあることと、ブランデーのおかげで、甘みが抑えられ、スッキリ感が与えられると同時に、輪郭もクッキリと明確になります。
今回はスープ、肉料理、デザートがクラシックスタイルになりました。料理に新鮮な驚きは必要ですが、すべてが新しい必要はありません。料理の改革はつねに過去の料理、先達の料理の再構築から始まっているのです。ヌーヴェルキュイジーヌの巨匠たちのスタートラインはエスコフィエでした。新鮮な素材が流通するようになってエスコフィエ的な厚化粧が不要となって、いかに軽やかにできるかを競ったのでした。私はその巨匠たちの料理を若い時に体験して、大好きな料理がいっぱいあります。それらは私の血肉の一部と言えるでしょう。本当に好きなものは、時代を超えて生き続けているものだし、私らしさを出すにしても、ほんのわずかなアレンジで十分なのです。余分と思われる要素を一つ抜いたり、手順を簡単にしたり、付け合わせを変えたりといったところです。年々、素材の持ち味そのものに惹かれていっていて、味付けも調理もよりシンプルな方向に向かいがちです。そういった中で、素材の味わいを素直に伝えるだけでなく、いかにインパクトを創り出し、深く印象に残すか、そこが一番の課題です。
『アスパラトリュフ』では2つの素材の一体感が生まれればいいなと思って作ったのですが、あまりに味を付けなさすぎかと心配しましたが、裸の味のぶつかり合いだからこその一体化だと思います。ジュレの粘度の役割も大きかったでしょう。
『茸のサラダ菜包み』はノワゼットの力強さが生きました。オイルもローストした実もいい働きをしています。
『ナニワ黒牛ミスジのステーキ』は肉の良さを存分に発揮させられました。古典的な調理法でしかも普遍的。この力強い味わいは、いくら時代が変化しても失いたくないものです。
『アラの蒸し物』。アラは強い素材なのでほとんど手を加えず、ホタルイカと菜の花のソースをソースとしてでも付け合わせとしてでも成立するようなものにしてみました。それぞれが協調的にも対立的にも味わえるのが面白いところです。
『アスパラのスープ』はクラシックスタイルのままのようですが、ブイヨンを使わず、アスパラそのものを強調しているところに新しさがあります。
『サワラのソテー』は濃厚な味わいにカニ味噌の濃厚なソースを合わせました。トロリとしたソースがややねっとりとした身にうまく寄り添い一体化して、カニ風味の魚肉に変身します。
『仔羊の背肉のロースト』はまさにクラシック。付け合わせのマッシュポテトとチップスの組み合わせも珍しい訳ではありません。ラム&チップスという出会いに目新しさがあり相性もいいなと、作りながら楽しくなりました。
『オムレットノルヴェジャン』も古いデザート。イベント性があるのでお客様には喜ばれます。メレンゲとアイスクリームという組み合わせがやや甘すぎるので、両方とも甘さを控えました。そのことだけで現代的なデザートになり得ていると思います。
ヌーヴェルキュイジーヌの時代から後、ますます流通が促進され、世界中のどのような食材も調味料も手に入るようになり、あまりに自由が拡大され、フランス料理の規範が弱体化しつつあります。そういう時代だからこそ、クラシックな原点をつねに見据えている必要があると思います。

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