La Becasse

In season

In season

1月の料理イメージ ある日の料理から

生ガキ

  • 生ガキ
  • この時期にしかお出ししていません。一番味が乗る時期であることと、海水温、気温ともに低くて雑菌が繁殖しにくいという衛生上の問題も含めて、安心して使える時期なのです。
    プリッとした張りのある食感ののちにたっぷりとした旨みに覆われます。小ぶりながら旨みの濃い高知産ならでは。ほんのり塩気を感じるのは貝殻に含まれている海水の塩気です。何も手を加えていない自然の恵みそのまま。豊かな自然に感謝するしかないです。この皿での私の調理は目利きと、水っぽく感じないように水分をしっかり切ってお出しすることのみです。

香住カニのフラン

  • 香住カニのフラン
  • 松葉ガニの脚肉(細い部分)のしなやかさを活かした料理です。カリフラワーのピュレに沈め、上からカニ味噌のソースを流しています。カニ身を堪能する料理ではなく、品よく風味を味わうものとして作っています。カニ味噌ソースも濃厚に感じさせるのではなく、サラリとした味わいが特長です。こういう料理ではカリフラワーのような淡いけれど豊かな個性を背景にすることで満足感を高められます。

イタヤ貝の海藻ジュレ 甲殻ソース

  • イタヤ貝の海藻ジュレ 甲殻ソース
  • イタヤ貝というのはホタテ貝を小さくしたような形ですが、貝殻の彩りが美しくて集める人もいます。柱の部分を賽の目に切ってアスパラ菜と和え、昆布出汁を海藻ゼリーで固めたものを流しかけ、甲殻類のソースに置いています。周囲の飾りはケール、紅芯大根、インゲン豆など。アスパラ菜は味がアスパラガスに似ている菜の花の仲間です。
    貝の旨み、昆布出汁、アスパラの甘みが混然一体となり、甲殻ソースの濃厚な味にまみれることでさらに複雑で奥の深い味覚世界を築き上げます。野菜類の粒は小さいけれどはっきりとした食感が、旨みに溺れるのではなく、1つ1つの味わいを意識させる覚醒装置となっているのです。

牛すね肉、フォアグラ、トリュフのスープパイ包み焼き

  • 牛すね肉、フォアグラ、トリュフのスープパイ包み焼き
  • ボキューズさんにも同じような料理があります。真似しようとして作ったのではないのですが、パイ包みのスープを作ろうと思ったら自然に似たものになってしまっていたのです。料理人としての成長過程で得たもの、触れたものが自然に形となって現れてくるのでしょう。力強いブイヨンをひくことが肝心。スープを吸ったパイ生地が美味しさの核ですが、これもスープ次第。もちろんフォアグラの濃厚さやトリュフの香りの豊かさも色を添えています。

カエルのソテー バター風味 ドンブスタイル

  • カエルのソテー バター風味 ドンブスタイル
  • カエルというと日本では地方の滋養食のようなイメージですが、フランスでは大変な高級食材です。ローヌアルプ地方にドンブ湿地帯というところがあって、そこが代表的な産地。今はほとんど獲れなくなってトルコ産が増えています。今回はそのトルコ産が手に入りました。鶏肉よりもウサギ肉よりも淡白でしっとりとしていて、一度美味しさを覚えると熱心なファンになる人がいます。常連さんで毎年食べに来て10本くらいペロリと平らげてしまう人がいるくらいです。
    淡白な味わいを堪能するにはシンプルな調理法が一番。ギリギリの火通しで、ブールノワゼットを掛けるだけ。病みつきになる味です。

トマトファルシとラタトゥイユ

  • トマトファルシとラタトゥイユ
  • トマトの詰め物は手羽元とトランペット茸を和えたもの。下のラタトゥイユは茄子のとろみを活かし、ビネガーを強めに当てて、力強さを出しています。鶏と茸の旨みに満たされたファルシだけで温和に調和した世界が作り出せているのですが、ファルシのトマト以上に強いラタトゥイユの酸味をぶつけることで、逆にトマトの甘みを帯びた酸味の美味しさが明確になります。ラタトゥイユも溌溂とした美味しさで印象に残るでしょう。

カキのクラフティ ヴァージョン1

  • カキのクラフティ ヴァージョン1
  • カキ料理二皿目。今日はカキ尽くしの趣があります。この季節にぜひ堪能していただきたいと思っています。
    小麦粉、卵、バターで作ったシンプルなクラフティ生地にカキを載せて焼き上げています。添えているのは京都と奈良の境目にあるお茶農園さんが育てている菜の花。冬の間に春を感じてもらうということもありますが、カキの力強さを菜の花の苦みで洗い流しながら、もう一口と食べ進めてもらうためのものです。

カキのクラフティ ヴァージョン2

  • カキのクラフティ ヴァージョン2
  • カキ料理三皿目。同じフランにムール貝ベースのサフランソースを合わせています。前のものとは違って、カキの強さをキャンセルせずに、より以上に強い味わいで楽しんでもらうための皿です。クラフティ生地がソースをよく吸うので、ソースと合わせるのに適しています。カキの濃厚さにムール貝の旨みを合わせたことで、部厚いテイストが出来上がり、サフラン特有の香りが強さを強調しつつ、キレの良さも生み出しています。料理の最後を締めくくるのにふさわしい強くて爽やかな皿になったのではないでしょうか。

蜂蜜アイスとクリネのモンブラン

  • 蜂蜜アイスとクリネのモンブラン
  • いつもお出しする蜂蜜アイスにはカカオニブを振り、クリネと呼んでいる栗と百合根を合わせたクリームを絞りました。スープは栗と牛乳。タピオカを入れています。栗と百合根を合わせることで、しっとりとした優しい味わいになります。栗の風味は弱くなりますが、スープの栗風味で補っています。料理の品数が多いので、デザートは比較的軽めに、胃の負担のないものにして、サラリと締めくくるようにしています。
この季節にしか食べられない生ガキ向きのカキが手に入ったら、カキでコースを組み立てたくなりました。3品もお出しするので、単調にならないようにヴァリエーション豊かな食材をコースに盛り込みました。カニ、イタヤ貝、ドンブ産のカエル、牛すね、手羽元。甲殻のソースもありますから海のイメージは強いでしょうが、カエルのインパクトは強いし、パイ包みやファルシなどの古典的な手を掛けた料理も強いアピール力を持っています。
フランが二皿、パイが一皿、料理の中に粉物が多く、ヴォリュームたっぷりなので、他の皿を比較的さっぱりとした味わいにして、食べ疲れしないということにも気を遣いました。
高知県産のカキは有名ではありませんが、凝縮した味わいは群を抜いています。この素材のパワーがなければ、今回のコースは成り立たなかったでしょう。
他の食材もそれぞれ特色があります。香住のカニはもちろん松葉ガニですが、カニ類の中で一番品のいいものだと言えるでしょう。その上品さを表すのに最適なのが足の先の部分。一匹丸ごと食べるようなときには、ついつい見捨てがちな部分です。食べてみると味の強さには欠ける部分がありますが、しなやかな食感と風味そのものは他の部分に負けていません。おそらく赤い色の付いた皮膜に風味があるのでしょう。そこを活かして、カニ味噌でさらに風味を強調してみました。
イタヤ貝はポピュラーでないのがもったいないくらい。ホタテより味はさっぱりしていますが、プリッとした食感は優れていて、小さな賽の目にしても存在感が強く、他の素材と合わせても埋没しません。
カエルは言うまでもなく、最高の素材。手に入ることが幸せなくらいです。
トリュフスープのパイ生地は、香りを閉じ込める役割も果たしていますが、それ自体の豊かな風味も格別。昔から愛されつづけているだけのことはあります。
トマトはビジュアルも素晴らしいし、食べても特別の個性を持っています。あまりに日常的な素材になってしまったので、ついつい軽視しがちですが、私は好きで頻繁に使っています。
今回は個性の強いカキを主役に据えてみたら、けっきょく共演できる素材は、やはり負けず劣らず個性の強いものばかりになり、オールスターキャストの感があります。これだけの顔ぶれが揃うと、素直にその持ち味をお伝えするシンプルな調理が、素材を活かし、コースにまとまりを与える一番の方法でした。

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