La Becasse

In season

In season

12月の料理イメージ  ある日の料理から

冷製イカ墨リゾット風

  • 冷製イカ墨リゾット風
  • もち麦、野菜、タコとホタテをイカ墨のソースで和えています。ビネガーでほのかな酸味、コショーで適度な刺激を与えています。新鮮な墨だけでワタは使っていないのでイタリアンでよく出会うイカ墨料理のような特有の臭みはありません。
    真っ黒に金箔というビジュアルとは違い、とてもノーマルな優しい味わい。もち麦を中心にした弾力ある食感のグラデーションと野菜のシャキシャキ感の出会いに面白味があります。

なにわ黒牛の芯タマ カシューナッツソース

  • なにわ黒牛の芯タマ カシューナッツソース
  • 大阪産の黒毛和牛で、なにわ黒牛と呼ばれるものがあります。大阪の特産品として広めようとしていますが、まだまだ流通量の少ないものです。芯タマとはモモ肉の内もも部分。
    赤身のしっかりした味わいが魅力です。ナッツのソースを合わせて旨味をさらに濃厚なものにしてみました。合わせた素材は変化に富んでいます。シイ茸、ジロル茸、インゲン、ニンジン。全体が混ぜ合わされた感覚は白和えに近いです。トップに載っている花の蕾は金針菜。エレガントな香りがあって、貪欲な旨味指向に気品を加えてくれています。けっして飾りではなく、重要な役割を果たしているのです。
    周囲にまわし掛けているのは芯タマをソテーした際のグレーヴィーソース。これも味のきめ手の一つです。

冬スズキのポワレ カキのソテー添え

  • 冬スズキのポワレ カキのソテー添え
  • スズキは夏が旬。冬は産卵期で身の味が落ちますが、その代わり冬スズキ(平鱸)というものが出回ります。関西ではモスと呼んでいます。非常に美味で市場で見かけると嬉しくなる類のものです。味を活かすためにシンプルにポワレに。カキを添えていますが、その濃厚な味わいを従えるほどの力強い味わいを持っているのです。野菜はチーマ ディ ラーパというイタリアの菜花。カリフラワーのソースを添え、カレー粉を散らしています。

カレイのドゥミドゥイユ

  • カレイのドゥミドゥイユ
  • ドゥミドゥイユとは半喪服という意味ですが、真っ白く仕上げた素材に黒のトリュフを合わせる料理に名付けられる言葉です。今回はカレイの腹側の白い皮、背側の黒い皮と血合いも含めて白黒を対比させています。トリュフはもう冬のものが手に入ったのですが、少し色が悪く、真っ黒でなかったのがちょっと残念でした。
    カレイは皮がトロッとするまで煮込み、白い方にトリュフスライスを載せています。付け合わせはオニオンヌーボー、ソースはその煮汁とカレイの煮汁を合わせたものです。ほのかなネギの香りで味わいが深くなっているでしょう。
    血合いを取り入れたことで、見た目の対比だけでなく味わいの点でも対比を創り出せ、ドゥミドゥイユを一歩前進させられたかなと思います。

タイラギのマリネ リンゴのピュレとキャビア

  • タイラギのマリネ リンゴのピュレとキャビア
  • 貝柱というと今ではホタテ貝のイメージの方が強くなっていますが、お寿司屋さんで貝柱と言えばいまだにタイラギ(平貝)。昔は有明海で沢山獲れたそうですが、今では希少になっています。歯応えがあり、旨味も強く深みがあります。上にキャビアを載せているのですが、食べるとフルーツソースで食べているように感じるでしょう。リンゴのピュレを合わせているので柔らかな甘みに覆われるのです。基本的に海産物、甲殻類や貝類は甘みを持ったフルーツと相性がいいのです。添えている野菜はケール。タイラギのエキスとオリーヴオイルも加えて味わいに幅を持たせています。

ベカスのロースト カナッペ添え

  • ベカスのロースト カナッペ添え
  • ようやくジビエの女王ベカスを食べられる季節がやってきました。「ラ ベカス」の定番料理であるローストにしました。1羽丸ごとローストにし、内臓すべてを包丁で叩き、バターと水、ブランデーで炊いてソースにし、骨ごと解体した身をソースで和えています。手掴みで骨ごとしゃぶっていただきたい料理です。骨の周りの細かな肉まで味わい深いですから。脳ミソも美味なので頭も半割にしてお出ししています。小さな鳥の部類ですが、何を食べたらこんなに濃厚な味になるのだろう、というくらいに圧倒されるほどの旨味に満ちています。カナッペに載せているペーストはフォアグラも加えブランデーをたっぷり利かせています。メインの皿を堪能した後に、さらに強烈な印象を記憶に留めていただけるのではないかと思います。

アイスクリームのカキスープ

  • アイスクリームのカキスープ
  • 熟し柿のジュルジュルになった実にブランデーを加えてスープにし、アイスクリームを浮かべ、カカオ豆を砕いたカカオニブををパラリと振りかけています。柿は古来、貴重な甘味源として大切にされ、田舎の家には必ず植えられていました。酸味を伴わない甘みはとても品が良く、大人の甘みとも言えるでしょう。直接感じられるというのではないのですが、渋の余韻のようなものが遠く漂っているのが味わいに奥行を与えているように思います。ブランデーで味を少し深くし、アイスクリームと合わせました。甘いもの同士なのでカカオニブの苦みで締めてみました。
今回はソースのシンプルさが際立っていたかもしれません。イカ墨、カシューナッツ、オニオンヌーボー、カリフラワー、リンゴ、内臓。ほとんど手を加えていません。
そのままか、ピュレか、煮汁か。一番手が込んでいるのが内臓ですが、それでも内臓を叩くことと、ブランデーを合わせているくらい。それ以外にビネガーを加えて味覚を立体的に感じられるようにしているものもありますが、いつもの私の味付け方法の一つです。
調理の手間、手数を減らしてなるべく素材の持ち味をストレートに味わっていただけるようにしています。そのことでソースが目立ちすぎず、より素材に寄り添うようになればとの
思いがあります。フランス料理はソースの料理のように言われ、ソースが重要視されています。もちろん大切であることは認めますが、それ以上に煮込み、エチュベ(蒸し煮)、ソテー、ポワレ、ロティといった調理法にこそフランス料理のアイデンティティがあるのではないでしょうか。
イカ墨のリゾットではソースは素材を見えなくすることに意味があります。風味もほのかにありますが、フォークで掬った素材が分からないまま食べて、何を食べているかに神経が集中するような仕掛けです。一口ごとに興味を掻き立てられ、分からないまま旨味に満足を覚えるという体験をしてもらえるでしょう。
なにわ黒牛も和え物で素材が何か分かりにくい料理です。牛、茸、インゲン、ニンジンという一見まとまりのない素材を一つにまとめているのがカシューナッツソース。ソースが強く全体が一色になりかけているのを、グレイビーの塩気とコク、金針菜の香りで変化を付けています。
ドゥミドゥイユはカレイとトリュフでほぼ完結しているので、ビネガーとオニオンヌーボーのネギ風味でほんの少し補えば十分でした。
冬スズキはカキも含めて力強い味わいなので、それに匹敵する香りが欲しくてカレー粉を振っています。カリフラワーのピュレで柔らかく包んで、味わいをより広いものにし、持続時間も長くしようとしています。
タイラギは貝自体のエキスとオリーブオイル、キャビアが基本的な味付けなのですが、りんごのピュレと出会うことで、一瞬ブラックベリーのジャム?と錯覚を起こさせるギミックになっているところにも面白味があります。
ベカスはクラシックな料理の伝統に則っていますので、ソースもそれなりに手数を掛けています。とはいってもバターとブランデーなので、風味が深くなるだけで、内臓の味自体を左右するほどのものではありません。骨をしゃぶり内臓を喰らう野趣を満喫するためには欠かせないソースです。
熟し柿は単独であればそのままでも美味しいのですが、より甘いアイスクリームと合わせるのでブランデーでほんの少し深みをプラスし、飲みやすいようにコシを切っています。
このように、ソースといっても一律に素材との味の組み合わせの上で同等の価値を持たせるばかりではなく、さまざまな機能を持たせられるのです。

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