La Becasse

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フランス料理の変わらない風味

スパイスなどの輸入文化で変化をつづけるフランス料理ですが、一方で地方に根付いた変わらない風味もあります。南仏に顕著ですが、アンチョビを使ったアンショワイヤードやタップナード、ニンニクを使ったアイオリソースやルイユといったものが南仏料理になくてはならないものになっています。アルザスではシュークルートが欠かせない。フランス全土ではマスタードが日常的になんにでも使われています。前日にソースで食べたローストビーフやローストチキンの残りを翌日はマスタードで食べるというのが普通の食事です。
また、タルタルソースや、その原型になったという人もあるレムラード(マヨネーズにアンチョビなど)が絶対的な人気で、豚肉や魚、サラダにでもなんにでもつけて食べています。オールマイティのソースです。日本でなんにでも味噌を合わせたりするのと同じでしょう。私が大好きなポン酢もオールマイティなところは似ています。
マヨネーズはレストランでも多用されていて、ボキューズさんもマヨネーズにボジョレワインを入れただけのソースボジョレをアスパラガスに合わせたりしていました。もちろんマヨネーズは自家製です。
このような国民食的な味覚のベースは不変であってほしいと思います。今は人の交流が盛んになり、食品の流通も激しくなって、世界のどこにいてもどの国の料理でも食べられる世の中になって行っています。日本がその典型でしょう。東京へ行けばおそらくほとんどすべての国、地域の料理が食べられるでしょう。この傾向が極端に進めば、結局オリジナルが失われる危険を招いてしまうと思います。
フランス料理の世界を大きく開く力を持っていたスパイスやハーブですが、どこかで歯止めをかけないと、フランス料理がそのアイデンティティを失ってしまう日が来るのではないかとちょっと保守的な気持ちも抱きます。せめて伝統的な調理法であるエチュベ(蒸し煮)やミジョテ(とろ火でゆっくり煮る)といったフランス特有の技法を大切に守ってほしいと思います。

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