La Becasse

Memory

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唯一こだわりがある道具は爪切り

まだ四ツ橋に最初の店があった頃、すごくダンディなお客様がいらしたのですが、その日はあいにくどうしても店を抜けなければならない用事があって、お客様より先にお店を出てしまったのです。そうしたら食事を終わったお客様が「渋谷さんに」といってプレゼントを置いて帰られたのです。それが「諏訪田製作所」の爪切り。以来25年ほど、ありがたく使わせていただいています。その切れ味たるや、見事の一言。ほとんど手入れもしていないのに切れ味は衰えません。職人の手は感覚を一定に保つために手入れを怠らず、頻繁に爪を切る必要がありますが、その都度気持ちのいい切れ味に惚れ惚れしてしまうのです。一番お世話になっている手放せない道具です。
人付き合いが悪く、お礼をお伝えすることもしないままで、いい気分を味わってしまっています。諏訪田さんにはステーキナイフ&フォークのセットや栗剥き挟みなども作っておられるのは知っていますが、不義理を通してしまっています。この場を借りてお礼と謝罪をお伝えしたい気持ちです。

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