ボキューズさんのところは年中無休で、スタッフはシフトを組んで休むシステムでした。
週末にみんなで営業後に深夜映画を観に行き、最後ブラッスリーでステーキ&フリットを食べ、ビールを飲んで帰るというのが楽しい習慣でした。
パリでは日曜か月曜に休むところが多く、「ジャマン」は土日休みでした。土曜になると家にいたためしがないです。朝出て夜に帰宅するまでパリの街を歩き回っていました。中学の時に初めて買ったニコンF2フォトミックAに55mmのレンズを付けて、気に入ったアングルを見つけて撮ったり、面白そうな路地に入り込んでみたり、ともかく歩くことが好きですし、飽きることがありません。現像代が高いのでそんなにバシャバシャ撮るわけではありませんけど。フナックが安かったので、そこに持ち込んでいました。
それに美術館巡りも好きだったし、必ずと言っていいほど、最後は映画を観に行っていました。80年代当時は“ディーヴァ”の監督ジャン=ジャック・ベネックスや“グランブルー”の監督リュック・ベッソンが登場した頃で、フランスの映画界は活況を呈していました。映画を見始めたのは語学学校に半年通った後、ソフィー・マルソーのデビュー作「ラ・ブーム」。会話の全てが聞き取れた訳ではありませんが、なんとか内容は理解できました。そういえば小津安二郎の映画が好きになったのはリヨンの名画座的なところで観たのがきっかけです。好きな俳優はジェラール・ドパルデュやジャン・レノ、コメディアンのコリューシュなど個性派が多士済々。日本ではあまり知られていない名優のパトリック・ドゥヴェールが出演した「Beau-pere(義父)」という映画には感動しました。女優ではイザベル・ユペールが好きです。すべてに通ったというのではないですけど、当時のポスターを見れば、ほぼ思い出せるほど熱心に観ていました。
平日は料理に熱中し、休みになると遊びに夢中になる。その切り替え、集中の深さが、今の自分を創り出しているのかなと思います。
中学の時にニコンを買ったように、モノ好きで一流品に目がなかったです。シェフたちがどんな車に乗り、どこの腕時計をし、何を着て出かけるのか、靴は、といつもつぶさに観察していたものです。関心の矛先を料理一本に絞ることなく、なんにでも好奇心を抱き、興味の対象を広げる貪欲さが、料理のレパートリーを広げていく精神と共通しているように思います。だから遊びも馬鹿にならないし、真剣に遊ぶべきだろうと思います。何事も一直線に結びつくわけではありませんが。