La Becasse

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私が体験したジビエ料理

フランスに渡った最初の年、ボキューズさんのところで働いている頃からレストランへ食べに行っていました。ジビエ料理は3ツ星の店より、1ツ星クラスでジビエ得意の店の方が面白いものを出していたように思います。リヨンの郊外にそんな店があってよく行っていました。
日本でも普段食べる肉以外の猟獣肉、特に鹿、猪以外となるとゲテモノのイメージでとらえられがちだと思いますが、先にも言ったようにフランス人でも限られた人しか食べない。階級の問題もあるけれど、食材としてやはり違和感があるのです。
その点、私はゲテの内臓でもジビエでも特に抵抗感なく食べられました。通っていたこの店ではボキューズのスタッフということもあってか、可愛がられて、キッチンにも入れてもらって肉の扱いや調理法も見せてもらえました。かつては長く置いておいて腐る寸前のものを食べていたようなことも聞きますが、当時はもうそんな習慣もなくなり、清潔そのもののキッチンでした。日本でジビエを扱うお店の中には解体の血で汚れていたり、脂ぎってギトギトした料理を出す不潔感を催すところもあるようです。それは改善してもらいたいと思います。
ペルドロー(山ウズラ)、リエーヴル、コルヴェール(青首カモ)、コガモ、ベカスなどさまざまなジビエを食べています。なかでもお気に入りはコガモとベカス。濃厚な味わいと豊かな脂肪が口いっぱいに広がり、喉へ落ちていく快感は言葉になりません。料理人としてスタートしたその年に受けた衝撃は生涯忘れられるものではありません。私がジビエを大切にする理由です。美味しいから、私が受けた感動のお裾分けをしたいという理由が第一。もちろんメニュー構成上の希少価値、他店では手に入らないものが食べられるといった商売上の理由もないといえば嘘になるでしょう。でも、特別に美味しいものを作れるという料理人としての喜びが上回ります。
最近では養殖技術が進み、中には養殖物の方が美味しい素材も出てきてはいます。しかし、一度食べれば大地の力、自然の恵みの豊かさを実感し感謝するようになるのがジビエの美味しさの凄いところ。そんなレストラン料理の母体とも言うべき自然が末永く保たれるように願わずにはいられません。

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