La Becasse

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最終形、自適の道へ

2014年の再び最初のオープンと同じ10月4日に現在の平野町の店をオープンさせました。今回は面積を1/3に戻し、席数をぐっと絞り込んで12席。6つのテーブルに2人ずつ。すべてをシェフズテーブルとして、スタッフの助けは借りますが、すべてのお客様、すべての皿を私がしっかり目を通して満足の行く料理をお出しするという念願のスタイルに到達したのです。今後席数を減らすことはあっても増やしはしません。空間もベストで、広すぎないレベルでゆとりも感じられます。
ここは元々、高麗橋「吉兆」さんが経営する「正月屋」というカジュアルな懐石のお店があったところ。ビルは湯木さんの個人コレクションを展示する湯木美術館の入っている湯木ビル。「正月屋」さんの時代は半地下で天井の高い空間だったのですが、埋め戻して普通の高さにし、床には天然大理石を敷き詰め、壁にはエルメスと同じ仕様の牛革を張っています。1辺80cmくらいの大きな四角いモジュールを張り合わせているのですが、牛1頭から4枚しか取れないので、膨大な端切れが今でもストックされています。スタッフにはこの端切れでバッグを作って持たせています。エルメスで作らせているわけではありませんが、エルメスのコピーと言えるでしょうね。皮の縦のラインに細い茶色の糸でステッチを施してありますが、私のデザインです。
客席の椅子も私がイメージを伝え、皮の色を緑に指定し、背中部分に菱形のチェック模様、腕の部分などに細い白糸でステッチを施すというところまでデザインして作ってもらいました。後々、アストンマーティンやベントレーなどのイギリスの高級車の椅子のようだと言われるようになりました。最初、想定していたより浅めの緑だった皮も年月を経て深みが出ていい雰囲気を醸し出しています。
思い入れを込めて作った空間に満足感いっぱい。本物で飾ったおかげで、目立ちませんが落ち着いた風格が年々滲み出してくるようになったようです。本物志向ということでは「アラン シャペル」を思い出します。メニューを置かず、私におまかせいただくスタイルにお客様の理解も進み、古いお客様が戻ってきてくれ、自適に料理を作れて毎日楽しい限りです。

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