La Becasse

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エスカルゴはなぜ有名に?

変わった素材ということで言えば、いま出たザリガニも日本では食べる習慣のなかったものですが、エビ・カニの仲間で美味しくて当然。食べることに不思議はないのです。
ところが日本で有名なエスカルゴ。これは不思議です。
ビストロ料理としては時々見かけますが、レストランではほとんど扱わないし、一般的にそんなに人気のある食材ではありません。
パリで暮らしていた時の大家さんがある時、お客を呼んでもてなすのにエスカルゴのスープを出したのですが、お客さん全員に大不評。不味くて食べられなかったのです。おそらく茹でこぼしが足りなかったのだと思います。「ボキューズ」でエスカルゴを出すときは缶詰になったものですらもう一度茹でていました。日本でもタニシを食べますが、何回も茹でこぼさないとエグミがあって食べられません。手間暇かけて苦労した末に酢味噌か何かつけて、ちょっとオツなつまみになるという程度のものです。エスカルゴも本来の実力は同じ程度でしょう。ニンニクとパセリたっぷりのエスカルゴバターがヒットの要因。このソースはたしかに美味しく、何と合わせても美味しくしてしまう力があります。
エスカルゴは元々ブルゴーニュのブドウ畑の葉っぱを食べる害虫で、駆除していたものをあまりに沢山獲れるので、なんとか売る方法を考えたというのがスタートではないかと勝手に想像しています。名酒を生み出すブドウの葉を食べているから美味しいというイメージが作り出され、カタツムリをフランスでしか食べないという特殊な条件が重なってフランス料理を代表する料理に祭り上げられたのではないでしょうか。実際にはフランス人はそんなに食べていませんから、とても代表料理とは言えないはずです。信州で食べている蜂の子の料理を日本料理の代表のように言われたら困るのと同じような位置づけだと思います。それが日本やアメリカのように宣伝に乗りやすい国では大きなスーパーや輸入食材屋さんに行けば、殻付きのエスカルゴが売っているのですから、驚くべき躍進です。
最近では日本でも養殖されるようになり、三重県産のものが知られています。とても高価でアワビ並みの値段が付いています。私はこの価格なら文句なしにアワビに軍配を上げます。

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